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"The Beatles - All These Years" by Mark Lewisohn

 野良 2013.5.19 00:56:17

 書籍

 音楽 » ロック


2003年に刊行が公表されてから10年。ようやく2013年10月にマーク・ルーイスンによるビートルズの伝記の1巻目(全3巻)が刊行される。



氏の"The Complete Beatles Recording Sessions"と"The Complete Beatles Chronicle"そして、ケヒューとライアンによる"Recording The Beatles"と並ぶ最重要リファレンス書になることは間違いない。それだけでなく、古今東西のあらゆるビートルズ書の中で最重要の1冊になるかもしれない。

第一巻は、1962年12月31日までの出来事で終る。
(1961年末までという情報もあるが、ルーイスンは、第2巻は'63年から始まると以前のインタビューではっきり言っていた。)

それでは始まりは?
著者は、その起源を追って1845年頃にまで遡る。何故そこまで遡らねばならないのかは本書を読めば明らかになる。
しかし、大昔の祖先の話は長くは続かず、すぐに舞台は20世紀そして第二次世界大戦に移り、それからビートル達の生誕と幼少年時代に繋がっていく。
彼らの家族環境や受けた教育などについて描かれたあとは、アメリカとその音楽の大きな影響を受け自分達も音楽活動を始めていく'50年代半ば以降についてが詳しく述べられていく。

ルーイスンは、リサーチと執筆を行っていた毎日が新発見の連続だったと言う。深く掘り下げていけばいくほど、今まで誰にも見つけられなかった黄金のような新事実を発見し続けたそうだ。
ビートルズ物語は事実で構成するだけで充分に豊かであり、著者が脚色を加える必要など全くないと著者は言う。

幾千もの新事実と既知ではあっても新たな視点から捉えられた事実が組み合わされた伝記になっており、例えばエド・サリヴァン・ショウのような有名な出来事でも、それがどのように実現したのか、実際のステージでは何が起きていたのか、読者は新鮮な気持ちで読むことでできる。

新事実についての一例。
世界中継されたテレビ番組『Our World』のために、ポールとジョージはそれぞれ「All Together Now」と「It's All Too Much」を作り、ジョンが作った「All You Need Is Love」と比較検討された結果、ジョンの曲が採用された、ということはこの本のため氏のリサーチで明らかになったことだ。

止め処ない新発見と溢れる執筆意欲から、著者は出版社が予期していたよりも3倍近く上回る語数で第一巻を書き上げた。一般読者向けとして語を半分近く減らした通常版を刊行し、全てをノーカットで収めたスペシャル・エディションも別途発行する。
また、専用ウェブサイトに多くの情報を掲載することも計画されている。

http://www.thebeatlesbiography.com/


各国毎の版の情報は下記の通り(2013年5月中旬時点)。

[イギリス]

(1). 通常版

a. ハードカバー版
リスト価格※1:£30.00
出版社: Little, Brown
ISBN: 9780316729604
ページ数:約1,000(800?)
語数:約38万語
発売予定日: 2013年10月10日
注記:巻末注釈ページなし(米版にはあり)

b. Kindle版※3
販売価格:£15.99
出版社: Little, Brown
ASIN: B00CQ5R1C2


(2). 特別版

装丁: ハードカバー
リスト価格※1:£120.00
出版社: Little, Brown
ページ数:約2,000(1,856?)
語数:約78万語
ISBN: 9781408704783
発売予定日: 2013年11月13日(14日?)
注記:写真も通常版よりも多い。限定発売ではない。


[アメリカ]

通常版※2

a. ハードカバー版
リスト価格※1:$40.00
出版社: Crown
ISBN: 9781400083053
ページ数:約1,200(1,248?)
語数:約43万語
発売予定日: 2013年10月10日(29日?)
注記:語数には巻末の注釈を含む(UK版では省略)。

b. Kindle版※3
販売価格:$22.14
出版社: Crown
ASIN: B00CNQ9P6E


[日本]

出版社:河出書房新社
その他詳細不明


※1 リスト価格よりも実売価格は低くなるのが通例。
※2 特別版は現時点では米国での発売予定はなし。
※3 Kindle以外の電子版刊行は不明。


【参照】
Interview (Peeples Place、August 2011)
Examiner.com
Amazon.com
Amazon.co.uk

※今後の新情報は、随時ツイッターに投稿の予定(筆者アカウント:nora_fabs)

アルバム『Please Please Me』カバー写真

 野良 2013.5.13 00:12:42

 コラム

 音楽 » ロック


このウェブサイトに興味深い写真がある。
Collectiethema 'De wereld volgens Bob van Dam'


 
*クリックして拡大
(c)Bob van Dam

イギリスのバンドリーダーで、1930-60年代に活躍したジョー・ロスを、ロンドンはマンチェス
ター・スクエアにあった(当時)EMI本社ビルの階下から見上げて撮影したものだ。
撮影者はBob van Damという写真家でおそらくオランダ人と思われる。

撮影場所と構図、そして被写体となった人物が立っている階も、別の写真家Angus McBeanが撮影しアルバム『Please Please Me』のカバーに使用された写真と同一である。
(被写体が立っている通路は反対側か。)

このロスの写真には1961年10月12日という日付が記されている。
これが正しければ、1963年2月中旬に撮影されたとされているMcBeanの写真よりも先に撮影されていたことになる。

ロスは、EMIグループのレーベルであったHMVと契約をしていた。この写真はEMI社屋で撮影されており、彼のレコードないしは音楽活動のプロモーションに使用するためにプロの写真家に依頼して撮影されたものであることが推定される。

EMI関係者あたりを通じてこの写真を見たか、あるいは何らかの媒体に掲載されたこの写真を見たMcBeanの印象に残り、ビートルズの撮影を依頼された時に(意識的に、または無意識に)彼がアイディアを流用した可能性が考えられる。
(ビートルズのアルバム・カバーのアートワークを担当したEMI関係者が、この写真をMcBeanに示したこともありうる。)

なお、Dam自身もその後ビートルズの写真を撮影しており、初めに挙げたウェブサイトでそれらを見ることができる。
他にジーン・ヴィンセントやローリング・ストーンズなどの写真もあり、ショービジネス界と関わりのある写真家であったようだ。

[ビートルズ画像へのリンク]
63年
http://www.nederlandsfotomuseum.nl/photo/thumbs_200px/upload/upload_73/UPL001535798.jpg

64年
http://www.nederlandsfotomuseum.nl/photo/thumbs_200px/upload/1151/DAM-2121-19_B.jpg

http://www.nederlandsfotomuseum.nl/photo/thumbs_200px/Vol00020004/0/23/00014230.jpg

http://www.nederlandsfotomuseum.nl/photo/thumbs_200px/upload/upload_84/UPL001536331.jpg

65年
http://www.nederlandsfotomuseum.nl/photo/thumbs_200px/Vol00020004/4/00/00000004.jpg

http://www.nederlandsfotomuseum.nl/photo/thumbs_200px/Vol00020004/6/24/00015246.jpg

(この記事は、2013年4月29日の私設ビートルズ資料館で行った講義のレジュメから派生させたものである。)

謝辞:flabbyroad

ビートルズ資料館講義「Love Me Do」レジュメ 5

 野良 2013.2.11 03:55:06

 論考

 音楽 » ロック


5. 「Love Me Do」シングル・リリース

10月5日  金曜


(1) シングル用バージョンの選択

わざわざセッション・ドラマーを使って再録音をしながら何故リンゴ版をシングルにしたのか?

◆リンゴやバンドへの配慮?
◆バンドやエプスタインの希望?
◆その時はリンゴ版の方が良く聞えた?
◆テープを間違えた? (2012年再発シングルでも同様のミスが発生)

  → 真相は不明。


(2) アンディ版のリリース時期

§アルバム: 『Please Please Me』'63年3月22日発売
→'63年2月25日 擬似ステレオ・ミックス作成時点ではアンディ版の使用が決定していた。

§EP: 『The Beatles' Hits』'63年9月6日発売

§シングル:'65年~'66年初期にはリンゴ版が一旦廃盤に(ブルース・スパイザー/フランク・ダニエルズの調査)。
 '76年の全シングル再発時に再カッティングされマトリクス末尾「-2」のディスクが登場。この時に英国シングルに初めてアンディ版が使用された。
   注:'60年代には 「-2」マトリクスの盤が製造されていたという説もあり。


(3) リンゴ版マスター・テープの廃棄時期

◆'63年2月4日発売のカナダ盤には、テープではなくUKシングル盤を音源として使用。
◆同年2月25日(まで)にはアンディ版をアルバムに使用することが決定。
 →シングル発売以降、'63年2月までにはテープが廃棄されていた可能性がある。

◆同年9月発売のEP『The Beatles' Hits』編纂時にリンゴ版を廃棄(ルーイスン)。
 → 何らかの証拠に基づく説なのかは不明。


(4) 音質等

§P.S. I Love You

◆オリジナル・シングル盤の方がLPよりも若干ドライ(残響が少ない)。
◆オリジナル・シングルでは終りにドロップアウトがある。


§ Love Me Do

◆リンゴ版:テープから製作されたのは'60年代のUK盤のみ。当時カナダとノルウェーでは盤起しで発売。他にもドイツやスウェーデンで発売(全て盤起し)。
US版『Rarities』('80年)ではカナダ版シングルから盤起し。'82年の20周年記念シングル発売の際に、本国EMIでも新たに状態の良いオリジナル・シングル盤からマスターが製作され、現在に至るまで使用されている。
  → 但し、オリジナルシングルよりも最後が短く、スピードが少し速められている。
◆アンディ版: '76年UK再発シングル(グリーン・スリーブ)の音質が高評価を得ている。


(5) エプスタイン大量購入説

§ビル・ハリーは強く否定

◆マージー・サイドでは沢山あった根拠のない噂の一つ。初めは1,000枚だった噂が尾ひれがついて10,000枚までになって様々な文献で事実のように伝えられた(例:ピーター・ブラウン著『Love You Make』)。
◆チャート操作ができないように、ある地域/一業者の売り上げが際立って多くても、チャートには影響しないような集計方法がとられていた。
◆ブライアンの弟クライヴ・エプスタインも否定している。 [内容] NEMSの経営に関わっていた父も自分もそのようなリスクを取りはしない。もしそのような行為があれば自分たちもレコードのインボイスを見るはずであり、小切手にサインもしなくてはならない。


【了】


<参考文献>

M. Lewisohn "The Complete Beatles Chronicle"
B. Kehew / K. Ryan "Recording The Beatles"
J. Barrett "John Barrett's personal notes"
J. C. Winn "Way Beyond Compare"
B. Harry "Mersey Beat: The Beginings of The Beatles"
G. Thompson "Please Please Me"
B. Spizer / F. Daniels "Beatles for Sale on Parlophone Records"
マ-ク・ルイソン『ザ・ビートルズ全記録 1』
マーク・ルーイスン 『ザ・ビートルズレコーディング・セッションズ完全版』

ビートルズ資料館講義「Love Me Do」レジュメ 4

 野良 2013.1.28 01:07:06

 論考

 音楽 » ロック


4. ファースト・シングル用セッション[2]

9月11日  火曜

(1) 目的

シングル曲を完成させること。
   ↓
セッション・ミュージシャンの起用は、それを確実にするため。
(「How Do You Do It」の使用を作曲者に拒否されたため:ゴードン・トンプスン説)


(2) レコーディング

§17時‐18時45分。第2スタジオ
  1時間45分で2曲を完成させ、更にもう1曲録音。 →前回との対比


§プロデューサー: ロン・リチャーズ (予定ではマーティンだった)
  エンジニア: ノーマン・スミス


§モノ録音 (ジョン・バレットの記録による)  
  予定ではモノ&ステレオ同時録音だった。
 録音がモノのみ → ステレオ版の作製は考慮されていなかった。


§ミキシング
 モノ録音だったため不要のはず → ルーイスン著書との相違


§セッション・テープ(アウトテイク)は一切残っていない。


§セッション・ドラマーの起用

[理由]
◆ロン・リチャーズ: リンゴ版はドラム・サウンドが良くなかった。
◆ノーマン・スミス: ポールがリンゴのドラムに不満だった。

[結果]
◆非常に安定したドラミングが支えとなり、演奏が引き締まった。
◆ドラムとベースがしっかり一致。
◆サウンドに迫力が出た。→ラウドなキック・ドラムの効果が大。アンディのアメリカ製ドラム・キットの影響も?
◆アンディのプロフェッショナルな仕事が、演奏・作品の完成度を高めた。
◆他の楽器に比べてドラムがきっちりとし過ぎている印象も。いかにもセッション・ミュージシャン的な演奏。
◆プロの世界の洗礼。各メンバーの意識が引き締まり、プロとしての自覚が高まったであろう。



(3) Love Me Do (Andy version)

§ テイク数 18
   →前回同様にテイクを重ねている。シンプルな曲だが完成までには回数を要した。


§ポールのボーカルがようやく本領発揮。


§リンゴのタンバリンがよいスパイスになっている。



(4) P.S. I Love You

§ テイク数 10
   →複雑なボーカル・アレンジの曲だが、シンプルなLove Me Doより少ない。


§ 三声のボーカル・ハーモニーの使用 → ビートルズの武器の一つ。


§ アンディの職人芸的なリム・ショット。



(5) Please Please Me (Andy version)

§録音テイク数は1?


§当初はLove Me DoのB面候補の一つだった。
「アレンジが凝り過ぎているとマーティンに指摘を受けた。よりシンプルな演奏にしようとしたが、セッションの時間がなく疲れてもいた。急いでやっつけ仕事にしたくはないので、マーティンが次の機会に試すことを提案した。」
 (ジョン、New Musical Express '63年3月8日号)


§テープは現存せず。『Anthology 1』は'94年にサザビーズ・オークションで出品されたアセテイトを使用?


§完成版との相違

・ハーモニカがない。
・ミドルでハーモニー/バッキング・ボーカルがない。


§リンゴは後にこのバージョンのアンディのドラミングを参考にしたパターンを叩いているが、よりパンチがあってビートルズにマッチしたスタイルで仕上げ、曲の完成度を高めることに貢献した。

ビートルズ資料館講義「Love Me Do」レジュメ 3

 野良 2013.1.11 00:54:20

 論考

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3. ファースト・シングル用セッション[ 1 ]

9月4日 火曜

(1) リハーサル

§14時~17時、第3スタジオ、ロン・リチャーズが担当

§6曲を演奏。Love Me Do、How Do You Do It、Please Please Me (スロー・バージョン?) 等。


(2) レコーディング

§19時~23時15分 (予定では22時終了)、第2スタジオ、マーティンがプロデュース。

§予定ではモノとステレオ録音。ジョン・バレット作成のテープ・ログではモノ録音のみ。

§歌と演奏を別録音。1本目のテープに演奏を録音。2本目には、1本目の音をコピーしながら歌を追加録音。
  →グループにとっては不慣れな方法だったはず。

§マーク・ルーイスン『レコーディング・セッションズ』などではこの日の夜にモノ・ミックスを作製。
  → 録音自体がモノラル(=録音とミキシングが同時)であれば、後からのミックス作業は不要だったはず。


(3) How Do You Do It

§デモ・アセテイト



◆バリー・メイスン歌、ザ・デイヴ・クラーク・ファイヴ伴奏。
◆シンガーのアダム・フェイスに提供されるも不採用。
◆ロン・リチャーズがビートルズの録音曲として推薦。
◆ビートルズはデモ・バージョンとはかなりアレンジを変更。
◆リハーサルやギグで演奏を重ねてレコーディングに備えた。
◆ジェリー・アンド・ザ・ペイスメイカーズ版はこのデモではなくビートルズ版を参考にした。


§テイク数
  テイク2がベスト。テイク2はテイク1に歌(推定)と手拍子を重ねたもの。
  →演奏、歌とも1回ずつで素早く完成。


§Sessions/Anthology vs Bootleg

◆Anthology版: '84年頃『Sessions』用にジェフ・エメリックが編集したものを流用。
  既存モノ・ミックスを加工・編集したバージョン(「別ミックス」ではない)。
◆Bootleg版: 未編集のオリジナル・モノ・ミックス。
◆相違点: 最終バース4行目。
  オリジナル:Wish I knew how you do it to me. I'd do it to you
  Anthology: Wish I knew how you do it to me. But I haven't a clue (第2バースから移植)



§不採用を巡って

◆契約したてのグループが、プロのA&R(Artists & Repertoire)マネージャーに選曲について意見した。
  自分たちの音楽性に確固たる考えがあり、それを立場が上の人間にも表明する度胸があった。(売れれば何でも良いわけではなかった。)
 それを受け入れたマーティンの度量と柔軟性。

◆(マスター)テープが現存する(シングルLove Me Do/P.S. I Love Youと同じリール)。当時、ボツ曲であればテープは保存されなかったはず。
  → すぐに不採用を決断したわけでなく、しばらく最終決断を保留していた?
  → テープが破棄されなかったために『Anthology』で公式発表することができた。

◆作者ミッチ・マーリーによれば、ヒットを確信していた自分の曲が正体不明の新人バンドに使われて無駄になるのを好まず、演奏を実際に聴くまで発売を許可しないことになっていた。
ビートルズの録音を聞いて全く気に入らず、リリースを拒否した。(ゴードン・トンプスンの調査)
 → 作曲者にそのような権限があったのか?


 
(4) Love Me Do (Ringo version)

§テイク数

◆伴奏で15テイク(Mersey Beat紙)。17テイク(マーティン)。


§演奏

◆マーティンの提案でテンポを速めた。
◆まず伴奏を録音。あとから歌と手拍子を重ねた。
  → この録音方法も時間/テイク数を要した原因の一つ?
◆ドラム: アンディ版に比べて迫力不足で目立たない。
    →マイキングやバランシングなど録音技術の問題もある?
◆ベース: チューニングが悪い。
◆リードボーカル: 声が上ずっている/かすれている箇所がある。全体に硬い。
◆ボーカル: ハーモニー(ジョン)がリード(ポール)のサブに回るのではなく拮抗している。
   →ビートルズのボーカルの特徴がデビュー曲から現れている。
◆ハーモニカ: 吹き過ぎてジョンの唇の感覚がなくなる程だった(Mersey Beat紙)。
                   ↓
(a) テイク数をかけたことによる演奏への悪影響
(b) 自作曲をシングルにすべく気負い過ぎた可能性。マーティン達を納得させる必要があった。
「全員が、ビートルズの独特のクオリティを正確に再現する完璧なサウンドにすることに
懸命だった。セッションが深夜に終ったとき、皆あまりにも呆然となり疲れ果て、結果の良し悪し
さえ判断できなかった。」(エプスタイン、Mersey Beat 62年9/20-10/4号)

ビートルズ資料館講義「Love Me Do」レジュメ 2

 野良 2013.1.3 21:19:36

 論考

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2. ファースト・EMI・セッション

6月6日 水曜日 午後7時‐10時
第2スタジオ
プロデューサー: ロン・リチャーズ、ジョージ・マーティン
エンジニア: ノーマン・スミス
テクニカル・エンジニア: ケン・タウンゼンド


(1) セッションの目的

オーディション? レコーディング?
    ↓
「レコーディング・テスト」だったと考えられる(エンジニア、マルカム・アディの証言あり)。

 ※レコーディングテスト:実際に録音をしながらミュージシャンの能力やレパートリーについて評価し、レコーディングの方針を決める。

組合(ミュージシャンズ・ユニオン)の規定料金がビートルズの面々に支払われている。
オーディションであれば支払はされない。
    ↓
この時既にEMI契約下のミュージシャンであったということ。


(2) 演奏候補曲

 [リードボーカル:3人]
Medley: Besame Mucho (Paul)/ Will You Love Me Tomorrow (John)/ Open (Your Lovin' Arms) (George)

 [リードボーカル:ポール]
P.S. I Love You (自作曲)
Love Me Do (自作曲)
Like Dreamers Do (自作曲)
Love of the Loved (自作曲)
Pinwheel Twist※ (自作曲)
If You've Gotta Make a Fool of Somebody
Till There Was You
Over the Rainbow
Your Feets Too Big
Hey! Baby
Dream Baby
September in the Rain
Honeymoon Song
※ピート・ベストが歌う曲とも言われている

[リードボーカル:ジョン]
Ask Me Why (自作曲)
Hello Little Girl (自作曲)
Baby It's You Memphis
A Shot of Rhythm & Blues
Shimmy Like My Sister Kate
Lonesome Tears in My Eyes

[リードボーカル:ジョージ]
A Picture of You
Sheik of Araby
What a Crazy World We Live in
Three Cool Cats
Dream
Take Good Care of My Baby
Glad All Over

※以上エプスタイン作成のリストより。実際にこの選曲がどれだけ活用されたのかは不明。


(3) レコーディング

§ジョージ・マーティンは当初は同席せず※。マーティンのアシスタントでこの頃ポップ音楽のプロデュースを始めていたロン・リチャーズがプロデューサー役を担った。録音エンジニアはノーマン・スミス。また、マーティンの要請でテクニカル・エンジニアのケン・タウンゼンドも立ち会った。 スミスは「Love Me Do」の演奏を聴いて「何か」を感じマーティンを呼んだ (当日のテープ・オペレーター、クリス・ニール談)。
     ↓
最初から、後のビートルズ・チームを構成する主要なスタッフが関わっていた。

※スミス自身は、通常はアシスタント・プロデューサーが担当する新人のテストに最初からマーティンが同席していたこと、そのためにこれは特別なテストだと思ったことを回想している。

§録音機材
コンソール: REDD 37
テープ・マシン: BTR3 (ツイントラック)、BTR2 (モノ)
※9/4、9/11のセッションも同じ機材が使用される。

§ジョン・バレット(EMIの録音エンジニア、'84年に死去)がまとめたビートルズの全テープの記録によれば、このセッションではツイントラック(2トラック)とモノラルの二本のテープが残された(どちらも後に廃棄)。 ミキシング・デスク「REDD 37」(EMI自社製)の「デルタ・モノ・レコーディング機能」(ステレオ/ツイントラックと「同時に」モノ録音ができる)を使用したと考えられる。

§歌と演奏を同時に録音。
 → 故に、「Love Me Do」の終りのラインもポールが歌うことに。  
※次のセッションではこの録音方式は変更される。

§ポールのベース・アンプは、ミュージシャン仲間のエイドリアン・バーバーが制作した(通称Coffin=棺桶)。 レコーディングに堪えない音質だったため、タウンゼンドとスミスが、スタジオ3のエコー・チェンバー(エコー発生室)のスピーカーを、スタジオのアンプとつなげて即席ベース・アンプを作成。このアンプは'63年までビートルズのセッションで頻繁に使用された。

(4) 録音された曲

§Besame Mucho, Love Me Do, P.S. I Love You, Ask Me Why
→ 4曲ともアセテイト盤が作成された。「Love Me Do」アセテイトのみ後年発見。

◆Love Me Do: '94年にマーティン宅で発見されたと云われるアセテイトから『Anthology 1』に収録。Coffinアンプを使用したかのようにベースの音がひどい。

◆Besame Mucho: ある人物(EMIのエンジニアとも言われる)が個人所有していたテープ(オリジナルではなくコピー・テープか)が'80年代前半に表出。
 未発表曲を編集したアルバム『Sessions』に収録され'85年に発売直前まで行ったが、ビートルズ側の強硬な反対により発売中止。『Sessions』がブートレグとして流出した後、'95年に『Anthology 1』で正式発表。  『Sessions』と『Anthology 1』には、ジェフ・エメリックが編集したバージョン(終りを繰り返す)が採用。『Sessions』の試作段階のバージョン『1, 2, 3, 4!』では、この曲は終りが未編集の状態で収録されていた。


§日本で'89年3月26日に開催された「Keibuy」のオークションで、ピート・ベストがドラムの「Love Me Do」と 「P.S. I Love You」を収録したという1/4インチEMI製リールテープが出品。本物であればこの日の録音か。
 
*画像クリックで拡大



※この後、8月中旬にドラマーのピート・ベストが解雇され、リンゴ・スターがバンドの一員となる。

ビートルズ資料館講義「Love Me Do」レジュメ 1

 野良 2012.12.31 18:03:53

 論考

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2012年10月8日に、私設ビートルズ資料館 http://www.thefabfourarchives.com/にて、「Love Me Do」リリース50周年を記念した講義を行いました。
内容は、その曲のリリースに関連した様々な情報やその時期のレコーディング・セッションについての情報などをまとめ、考察を加えたものです。

当ブログの更新が全く手つかずな状況のため、その際に作成したレジュメを数回に分けて掲載します。
(講義の際に配布されたレジュメに加筆・修正しています。)

※大変に貴重な機会を与えて頂いた資料館長の野口さんには心より御礼申し上げます。


1. EMIレコーディングまでの過程

§前史
◆ベルト・ケンプフェルト(ポリドール)とのレコーディング契約(1962年6月30日まで)。
◆エプスタインによるEMI(コランビアとHMVレーベル)への売り込み失敗。
◆デッカ・オーディションの落選。
◆パイ、オーリオールへの売り込み失敗。

1962年

2月上旬
ブライアン・エプスタイン(当時はエプスティーン)がロンドンのHMVストアを訪問。デッカ・オーディションのテープをアセテイト化。これがEMIパーラフォン・レーベルのマネージャーであるジョージ・マーティンとの面会につながる。

2月13日
エプスタインがマーティンと初めて面会。デッカ・オーディションでの録音を聞かせる。マーティンは関心を抱く。

2月20日、3月27日
エプスタイン、ベルト・ケンプフェルトへ手紙 ※を送付。
内容:英国のレコード会社との契約交渉が進行中。西ドイツで交わしたレコーディング契約の期間満了('62年6月末)での終結の希望。
※ 『ザ・ビートルズ全記録 1』p.70に掲載。

5月9日
§EMIでエプスタインとマーティンが再度の面会。マーティンはレコーディング契約を申し出る。この時点ではマーティンはまだビートルズに会っていなかったと言われる。

§エプスタイン、バンド(ハンブルク滞在中)とビル・ハリー(マージー・ビート紙)にレコーディング契約獲得を知らせる電報 ※を発信。
※ 『ザ・ビートルズ全記録 1』p.71に掲載。

5月18日
ジョージ・マーティン、EMIにザ・ビートルズとの契約申請書※を提出。
※『ザ・ビートルズ全記録 1』p.70に掲載。
※マーク・ルーイスンの著書では6月4日からの契約とされているが、この書類では6月6日から1年間の契約となっている。

5月24日
§EMI社内で契約書が作成されマーティンの元に ※。契約発効日は6月4日(?)。
※ 『ザ・ビートルズ全記録 1』p.71に掲載。

§西ドイツ、ハンブルクでケンプフェルト/ポリドール用の最後の録音(Sweet Georgia BrownとSwanee River)。翌日に契約終了(期間満了前)。

5月下旬
Mersy Beat誌 5/31-6/14号(V.1 #23)にエプスタイン談としてEMIと契約したという記事が掲載。

6月3日・4日
キャヴァーン・クラブでEMIでのセッションに向けたリハーサル。

6月5日
§バンドのメンバーが、EMIスタジオでセッションを行うために飛行機でロンドンへ。
§エプスタインがサインし返送してきた契約書※をマーティンがEMI本部に提出。
※ 『ザ・ビートルズ全記録 1』p.70に掲載。

6月6日
EMIスタジオでの初セッション。

6月18日
EMI側もサインした契約書がエプスタインに返送 ※。契約が正式に成立。
※ 『ザ・ビートルズ全記録 1』p.70に掲載。

6月26日
EMIのマーケティング・マネージャー、ロン・ワイトがエプスタインへ手紙 ※1を送付。
[内容]
1. 前年、エプスタインがグループを売り込んだ時に断ったことの言い訳。
2.マーティンはバンドに感銘を受けており、いくつかの手立て※2でバンドを更に良くすることができると考えて契約を決めた。
※1 『ザ・ビートルズ全記録 1』p.71に掲載。
※2 セッション・ドラマーの起用を含むはず→ピート解雇につながる。

ブログ名称変更

 野良 2012.12.31 16:03:58

 音楽 » ロック


平素より当ブログをご覧頂きましてありがとうございます。
全く更新ができておらず、度々ご訪問頂いている方には申し訳ありません。

この度、ブログの名称を『ビートルズ音源探求』に変更致しました。

Beatlegs(Beatlesのbootlegsの意)以外の記事が多くなってきており、今後も、
ビートルズの公式ミックスや別ミックス、アウトテイクからマスタリング違いなどの各種音源、
そしてそれらが製作された背景など音源に関連する様々な関連事項についても
取り上げるブログにしていきたいと考えたからです。

当ブログにリンクをして頂いている方には、お手数ですが、名称をご変更頂ければありがたく存じます。
(URLには変更はありませんので、変更されなくとも取り立てて支障はないとは思います。)

宜しくお願い致します。

Die Beatles (German "Please Please Me")

 野良 2011.12.18 11:14:44

 音源

 音楽 » ロック


ザ・ビートルズのファースト・アルバムのステレオ版は、「ゴールド・パーロフォン」盤(イギリス初版の最初期盤)が、製造枚数が少ないことから来る希少性もあって、殊に日本では絶大な評価を得ているように見受けられる。
一方で、海外のオーディオファイル気質のファンの間で高評価を得ているのが、『Die Beatles』のタイトル(*注)で発売されたドイツ版の『Please Please Me』である。
(*注:あるドイツの研究者の主張では、正式なアルバム・タイトルは『Die Zentrale Tanzschaffe der Weltberühmten vier aus Liverpool』。)
対象となるのは、この盤でマトリクスが「SHZE 117-A-2, SHZE 117-B-2」のものだけに限られる。後にタイトルが『Please Please Me』に改められ、カタログ番号が変ってからも、しばらくはこのマトリクスの盤が使われた。

[タイプ1]

 
タイトル: Die Beatles / Zentrale Tanzschaffe der Weltberühmten vier aus Liverpool
レーベル: HörZu
発行年: 1968/69年頃~ (※初版の発行は1964年2月)
カタログ番号: SHZE 117
マトリクス: SHZE 117-A-2 and SHZE 117-B-2 (第2版。初版は末尾が「1」)

[タイプ2]


タイトル: Please Please Me (UK版と同タイトルに変更)
レーベル: Odeon, Apple, Electorola
カタログ番号(発行年): 1C 062 - 04 219 (1969) または 1C 072 - 04 219 (1977)
マトリクス: SHZE 117-A-2 and SHZE 117-B-2 (タイプ1と同じ)

【高評価の理由】

この盤の評価を広め、高めたのはマスタリング・エンジニアのスティーヴ・ホフマンである。ホフマンによればその「好」音質の秘密は、EMIのドイツ子会社Electrolaに送られたマスター・テープにある。
そのマスターは、UK盤に比べるとコンプレッサー(またはリミッター)の使用が抑えられ(または使用されず)、EQ(イコライジング)処理もされていないために、より自然で好ましい音に仕上がっているというのだ。

アルバム『Please Please Me』の収録曲は、ファースト・シングルの「Love Me Do」と「P.S. I Love You」を除き、ツイントラック(2トラック)で録音された。
ツイントラックのセッション・リールから各曲のベスト・テイクが切り離され、アルバムの曲順にバンディングされて一つのリールにまとめられる。

モノ・バージョンは、ツイントラックの音声を一つにまとめてモノ化し、その際にコンプレッサー/リミッターやイコライザーを介してエンジニアが音の調整を行う。

ステレオ・バージョンの場合は、そのままでもマスター・テープとして使えるわけだが、ジョージ・マーティン配下の制作チームは、そちらにもコンプレッション/リミッティングとイコライジングで音を加工しつつ別テープにコピーし、ステレオ用のマスター・テープ(プロダクション・マスター)を新たに作ったようだ。

(なお、このドイツ盤はイギリス盤に比べてリバーブが少ないという意見もあるが、このアルバムではリバーブは録音時以外には使われていないはずなので、リミッター/コンプレッサーの効果によって生じた聴感上の違いと考えられる。)

EMIは他国にこのアルバムのマスターを提供する際にもこの加工後のテープからコピーを作って送っている。しかし、例外的に、ドイツには何故か加工「前」のテープを送った模様である。その理由は明らかではない。

EMIが加工(編集)前のテープを他国に送ることは時々あり、例えばハイハットのカウント付きのままの「All My Loving」(ドイツ版『With The Beatles』等に収録)や、失敗スタート付きの「I'm Loking through You」(米国版『Rubber Soul』に収録)などがその例である。
ただ、このようにアルバム1枚分まるごと別テープが送付されたのは非常に珍しい例と言えるだろう。

一方で、この説には複数の研究者やファンから疑問も呈せられている。

【疑問・異論】

1. 初版の謎

先述のように、このアルバムの「好」音質盤として挙げられているのは、マトリクスがA面「SHZE 117-A-2」、B面「SHZE 117-B-2」で末尾が「-2」(第2版と呼ぶ)である。このマトリクスのディスクが発売され始めた時期は、厳密には確定できていないが、1966年以降、おそらく1968-69年頃と推定される。
ホフマンによれば、この1968-69年頃、ドイツEMIでは新しいノイマン社のカッティング・マシーンが導入され、『Die Beatles』も新たにこの機器でカッティングし直されているとのことだ。

マトリクス末尾が「-1」(初版と呼ぶ)の現物を筆者自身は未確認だが、このアルバムの発売は'64年なので、その時にカッティングされた「-1」の盤が存在するであろう。
その初版に加工前のテープが使用されず、数年後に発売された第2版から使用されているのは不自然であり、考えられないことだという異論がある。

2. マスタリング(カッティング)の相違説

初版と第2版の音質の違いは、使用されたマスター・テープの違いではなく、カッティング/マスタリング時の音の加工(コンプレッションやEQ)の違いが原因とする説もある。

また、類似の意見として、イギリスもドイツも大元のマスターは同じ加工前のテープで、イギリスではそれにマスタリングで音に手を加え、ドイツではフラットにカッティング(アナログ盤では不可能なはずだが、結果がフラットに聞こえるようにということか)をしたという意見もある。
ただ、その場合、イギリス本国のEMIには加工後のプロダクション・マスターが別途存在しなくてはならない。
そうでなければ、再カッティング時やCD化の際のマスタリング時に、異なる音質の盤が出来るはずだからである。
(ただし、カッティング指示書があり、それに従ってほぼ同等の音質のカッティングがなされてきたというこもありうる。)

【真相は?】

『Die Beatles』初版の発売は'64年2月上旬のようだ。当アルバムのステレオ・マスター・テープ・ボックスの記載を参照すると、'64年1月9日~17日にマスター・テープが使用されている。テープの使用目的は書かれていないので確かなことは言えないが、この時にコピーが作成されドイツに送られたことが推測される。
このテープ・ボックスは、イギリスでずっと(記載は'64年1月以降だが)当アルバムのマスターとして使用されたテープを収めたものである。このテープのコピーがドイツ盤に使用されたのであれば、イギリス盤と同じマスター(世代は違うにしても)から作成されたことになり、ホフマンの主張は否定される。

もしホフマンが正しいのであれば、プロダクション・マスター以前のオリジナルのツイントラックがEMIに残っていて、それ(またはそれのコピー)がドイツに送られていなければならない。
オリジナル・ツイントラックはプロダクション・マスターとは別の個体のため、後者とは別の箱に保管されていただろう。そのため、先のマスター・テープ・ボックスで、コピーなどについての履歴を確認できなくとも不思議ではない。
実際、そのボックスには"EQUALISED COMPRESSED TAPE"という文字もあり、ツイントラックからEQとコンプレッション(リミッター)で加工して複製されたテープがイギリスでのマスターになっていることを裏付ける。

ホフマンの説が、ドイツ盤を聴いただけでの判断なのか、あるいはEMI内部の記録まで見てのものなのかは判然としない。
このため、ドイツ盤の「好」音質は、マスターテープの違いによるのか、単にマスタリングの違いによるのかを明確な証拠を持って断定することは今の状況からはできない。

そもそも、このドイツ盤第2版とイギリス盤の音の違いは誰にでもすぐに分るというものではなく、耳の鋭いファンやオーディオファイルでなければ言い当てられない類のものである。筆者自身も、ブラインド・テストを行ったら正答できる自信はない。

2009年版リマスター制作に当って、EMIのチームはイギリス以外の国のマスター・テープの調査は行っていないと思われる。ザ・ビートルズのテープの調査はそれでは不充分だ。
ドイツにまだ問題のマスター・テープが残っているのかはわからないが、彼の地でのドキュメント(記録)の有無も含めて詳細な調査が求められる。

Unsurpassed Broadcasts Second Edition 検証 4

 野良 2011.12.6 23:16:39

 Core Beatlegs

 音楽 » ロック


【Bonus Disc: Top of the Pops】

Tr. 24 I'm a Loser
/"Top Gear" 第20回、 1964年11月17日録音

『TotP』放送用原盤をソースとしている当トラックは、ブライアン・マシューのナレーションが被さってしまうものの、最後まで良好な音質で聴くことができる。しかし、アナログ・ディスクがソースゆえ、イントロのように音が静かな部分では静電気ノイズが目立つ。もっと気になるのは、『UB』制作者のイコライジングによると思われるが、高域が強すぎて過剰になっている点である。

翻って過去の盤を確認してみたい。音質の最も良い部類としては、まずYDの 『At the Beeb Vol.11』(tracks 16 & 27)がある。しかしこれも高域を持ち上げ過ぎていて耳につく。イントロのアコースティック・ギターの響きは特に不自然だ。また、コーダではマシューがしゃべり始める部分を避けるため、音質のずっと劣るオフ・エアー・ソースをつなぐ編集がされている。

もう一つ音質良好な盤としては、Westwood One(WOと略)の放送用原盤CD『The BBC Beatles Tapes: The Original Masters』 がある。前述の二つを聴いたあとでは高域が弱く、こもったようにも聞こえてしまうが、むしろそれらが高域を上げ過ぎているのだ。スペクトルを比較すると3kHz以上の帯域がそれらのブートレグでは強調されていることが分る。このトラックの高音質版は全てTotPの放送用原盤をソースとしているはずで、おそらく、主に制作者のEQの匙加減によって音質に相違が生じているのであろう。

WOの気になる点としては、聴感には影響ないかもしれないが、20.5kHz以上の帯域がかなりカットされていること。エンジニアがラジオ用原盤をマスタリングする際にローパス・フィルターを使って不要な帯域を抑えたのかもしれない。
『UB TotP』とは、コーダの後半でマシューのナレーション(TotP用に録音されたもので、オリジナル放送にはない)が重なることや、フェイドアウトのタイミングが同一であることから、同じTotPディスクを使用していることが裏付けられる。

迷うところではあるが、とりあえずベストとしては、EQが過剰ではないWOを挙げておく。
(注:『The BBC Beatles Tapes』の元番組である、英国で放送された『The Beeb's Lost Beatles Tapes』の放送原盤は未検証。)

当曲は『UB』の本編(Vol.10)に2回収録されているが、トラック2はMasterfractionのコピーで、トラック14はTotPと同じ放送用ディスクがソースとなっている。
また、このテイクにはラジオのスピーカーから流れた音をオフラインで録音したものもある。音質はインライン版に比べるべくもないが、ブライアン・マシューのしゃべり(オリジナル放送時のものでTotPとは別)が被るタイミングが遅い。かなり瑣末なバリエーションではあるが、一応サブ・ソースである。



Tr. 26 She's a Woman
/"Top Gear" 第20回、 1964年11月17日録音

BBCはラジオとテレビを問わず、番組のマスター・テープを長期保管しないという悪方針を長いこと続けてきた。このため、ザ・ビートルズのラジオ・セッションのテープも殆ど全てが残っていないのだが、例外として、この曲及び「I Feel Fine」については、レコーディング・セッションのテープがBBCの保管庫から発見された。
テープは10インチで約30分収録しており、"2 of 2"と記されているらしい("1 of 2"は残念ながら未発見のようだ)。1988年にBBCの特番『The Beeb's Lost Beatles Tapes』でこのテープからの音源が初公開された。
もどかしいことにその30分のテープの全容がまだ分っていない。いつかあまり遠くない日に全編公開を望みたい。

そのセッション・テープには、「She's a Woman」演奏前の会話や楽器音なども含まれている。
この『UB TotP』については、60年代当時の放送用ディスクがソースで、セッション・テープからの音源ではない。しかし、テープ・ソースの音源と比較して、クリーンでクリスプなギターの音、活き活きとしたスネア・ドラムの響きなど特に中域が魅惑的で、音質的には遜色がない。一方で、ディスク由来のノイズ(特に静かな部分)が耳につくのは否めない。
長さの点では、コーダでブライアン・マシューが『TotP』用に被せたしゃべりが入ってくるが、最後は他の音源よりも少し後まで聴くことができ、最長版である。

一方のセッション・テープ由来の音源だが、複数ある中で(公式盤『Live! at the BBC』も含め)比較検証した結果、もっとも良かったのがMasterfractionのブートレグ『Radio Sessions 1962 - 65』であった。
(但し、『The Beeb's Lost Beatles Tapes』の放送用原盤は未所有のため検証できず。)

しかし、おそらくEQ処理と思われるが、高域(ハイハット、マラカズなど)が耳につく音になっておりあまり心地よくはない。波形や周波数を見ても不自然なところがある。『TotP』と違って最後にマシューの声が被らないのは良いが、フェイドアウトは早い。

というわけで、両者一長一短があるため、並列のベスト・ソースということにしたい。

ちなみに、セッション・テープ収録音源は、こもった音に加工された公式盤、15.5kHz以上がカットされたブートレグ(『At the Beeb Vol.11』)など、全般的にあまり良い状態のものが入手できない。1996年12月31日と翌'97年1月1日にBBCが放送したラジオ特番『The Beatles at the BBC』では音質の良いものが含まれていたが、ギター・ソローの途中でナレーションが被せられ、演奏は途中でフェイドアウトしてしまうのが残念だった(Unicornのブートレグ『At the BBC Parts 1 & 2』にノイズありで収録)。
繰り返すが、歴史的資料としてBBCには是非このテープの全容を公開してもらいたい。



Tr.28 I Feel Fine
/"Top Gear" 第20回、 1964年11月17日録音

「She's a Woman」と同じくこの曲もセッション・テープがBBCに残っている。また、本作のソースにもなっている『TotP』の放送用原盤もBBCに残されており、それらのいずれかをソースとして音質の良いトラックが様々な盤に収録されてきた。

当曲は『TotP』で2回放送されている(『TotP』第4回‐1964年第52週放送と『TotP』第8回‐1965年第3週放送)。最初が当トラック28で、2回目が同じ盤のトラック34に当る。
しかし、後者は15kHz付近から上の周波数帯域が間引かれたかのように非常に弱く、圧縮音源であることをうかがわせる。
また、『UB』本編(Vol.10 tr. 17)にも、本トラック(トラック28)と同じ『TotP #4』原盤をソースとした音源がある。しかしそちらは最後を圧縮音源でつないでおりその箇所では音質が劣化する。

過去の音源で音質面でベストだったのは、筆者の判定ではYDのボックス・セット『At the Beeb』(Vol.11)であった。
このCDにはこのテイクが2回収録されている(トラック23と29)。音質は殆ど同一であるが、周波数スペクトラムを確認すると若干の違いが見られる。トラック23は高域がやや強く、トラック29は低域~中域がやや強い。後者の方がややベターか。

それと比較して、この『TotP』トラック28は、音質がより自然に感じられる。周波数スペクトルもそれを裏付けている。しかし、イントロなどの静かな箇所で静電気ノイズ(パチパチ音)が目立つのと、コーダでブライアン・マシューのナレーション(TotP用のもの)が被ってしまうのが難点だ。また、波形を見るとレベル・オーバーでクリップしている箇所もある。
判断に大変迷うところだが、しゃべりに邪魔されない『At the Beeb』の方が音楽の完全性では望ましいかもしれない。

ただ、その『At the Beeb』にも難点がある。最後のバースが終ってコーダに入るところ(ジョンが「ウーン」と歌う直前)で編集跡らしき箇所があり、ギターの音が僅かに欠けているのだ。また、その編集箇所からは周波数に変化があり、500-3kHzの中高域が弱くなる。これはEMIの公式盤やMasterfractionの『Radio Sessions 1962-65』など多くの音源で見られる現象で、本盤のトラック34にもある。当トラック28にはこの欠点はない。

「She's a Woman」同様にこの曲も1988年の『The Beeb's Lost Beatles Tapes』でセッション・テープが公開された。そして1996年末に放送された『The Beatles at the BBC』でも再びそのテープが放送された。
セッション・テープでは、演奏前のコントロール・ブースとバンドとのやりとりや、この曲の失敗テイクも含まれている。更には、ボーカルがダブルトラックになる前のシングル・トラックの状態の音源もあり、これは『The Beeb's Lost Beatles Tapes』で、曲の途中までの不完全な形でしか公開されていない。
そして、ボーカルがダブルトラックになった完成テイクについても、セッション・テープでは演奏の最後を、僅かにではあるが、より長く聞くことができる。

このテープを収録した盤を比較検証すると、聴感や周波数の面でUnicornの『At the BBC Parts 1 & 2』が一番良かった。ただし、このディスクはノイズが非常に多く、位相にも問題がある。その点ではYDの『Broadcast Collection, Trailer 1』や『At the Beeb』(Vol.11, Tr. 13)の方がマシだが、これらは圧縮音源で、Unicornに比べるとややこもった感じの音質である。

本来は、『The Beeb's Lost Beatles Tapes』の放送原盤や、『The Beatles at the BBC』の同原盤(こちらは存在自体未確認)を聴いて比較してみたいところだ。

(続く)



参考文献: 『Way Beyond Compare』 & 『Lifting Latches』 John Winn著

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